デジタル遺産トラブルを未然に防ぐ方法

「デジタル遺品」とは、パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存されたデータや、インターネットサービスのアカウントなどを指します。

デジタル機器には膨大な個人情報が含まれています。しかし、持ち主が亡くなったあと、故人が生前管理していたデータやサービスに遺族がアクセスできなくなると、遺族が大きな負債を背負うことになったり、相続トラブルに発展することも考えらえます。近年は自死や突然死など、若年層のデジタル遺品も目立っています。

そこで今回は、デジタル遺産トラブルを未然に回避する方法を考察します。

①デジタル遺産トラブルの現状

1.トラブル発生のほとんどの原因はパスワードの紛失

デジタル遺産のトラブルの原因は、スマートフォンやパソコンのパスワードが解除できなくなってしまったという事例がほとんどです。遺族が故人のスマホにログインを試みて、手あたり次第にパスワードを入力し、アクセスできなくなってしまったというトラブルも多発しています。

とくに注意したいのはiPhoneです。iPhoneのパスワードは10回間違えると、スマホ内のデータが初期化されてしまう機能が標準搭載されています。Androidについても、Galaxyの一部端末は、15回連続ミスで初期化する設定が選べる機種があるようです。

ちなみに、パソコンのパスワードには、何度か試してもデータが初期化される機能は搭載されていません。

2.どんなデータが残されているのか

たとえば、住所録や写真データなど、家族の思い出になる記録が残されています。葬儀を行う際に、個人の友人や知人に連絡ができないなどのトラブルも考えられます。

深刻なのは、ネット上の取引契約や、ネット証券口座、電子マネー、ネット銀行口座などの、お金に関する契約情報が凍結されてしまうことです。

②契約に関するトラブル

1.有料サイトやサブスク

有料サイトや課金アプリ(サブスク)の契約は自動更新になっていることが多く、契約者の没後も契約が継続され、銀行口座から金銭が引き落とされ続けます。パソコンやスマホのメールを見ることができない第三者には、故人がどんなサービスに入っていたのかわかりません。

持ち主が亡くなって3か月たってからクレジットカードに謎の引き落としが発生し。調べてみると何かの有料月額サービスだとわかり、ようやく4か月後に解約できたというケースもあります。

2.銀行や証券株式などのデジタル取引

パソコンやスマホの中身が見られなくなると。ネットバンキング、ネット証券、FX、暗号資産(仮想通貨)、先物取引などの大きな金額の取引が、ブラックボックスに埋もれてしまいます。

なかでも、故人がFXや暗号資産、先物取引など、高リスクの取引を行っていたケースは危険です。取引の事実を遺族が関知しないまま、損失が際限なく膨らみ続けると、遺産相続によって莫大な借金や負債を背負う恐れがあります。

3.口座やクレジットカードの凍結で考えられるトラブル

一般的には、故人のクレジットカードを止めたり、引き落とし先の銀行口座を凍結することで、故人の利用していたサービスを把握せずとも自動引き落としを防ぐことはできます。

しかし、この手段にはリスクがあります。故人が生前利用していたサービスの自動引き落としを一律で停止すると、クラウドストレージなどに遺されたオンラインデータが勝手に削除されてしまう恐れがあります。なお、ネット証券、FX、暗号資産、先物取引などのネット投資は、口座凍結の瞬間に精算を求められることになるでしょう。

③トラブル回避のための生前対策

デジタル遺品に関するトラブルを避けるためには、どうすればよいでしょうか。答えは単純です。

トラブルの多くは、故人のパソコンやスマホ内にアクセスできないことが原因で生じます。したがって、遺族が故人のパソコンやスマホのパスワードを知ることができれば。ほとんどの問題を回避できるはずです。そこで、事前に家族にパスワードを伝えておく方法が考えられるほか、以下のような方法もあります。

1.財布や手帳にメモを残す

たとえば、名刺サイズの紙にパソコンやスマホのログインパスワードを記入し、自身の財布や手帳に挟んでおく方法が考えられます。万が一の際には、家族は故人の財布や手帳を確認するはずです。

2.エンディングノートの活用

自分に万が一のことがあったときの引き継ぎノート​​とも言える「エンディングノート」を活用する方法があります。エンディングノートにログインパスワードを記入し、家族に対して「万が一のときは、エンディングノートを見てほしい」と伝えておく形はどうでしょうか。

3.見られたくないデータがある場合

1)見てほしいデータだけを指定しておく

人にはいろいろな事情があります。家族にも見られたくない情報がある場合はどうしたらいいでしょうか。残念ながら、絶対的な対策はありません。

たとえば、他人に見られたくないファイルやフォルダにパスワードロックをかけておく方法が考えられますが、完璧ではありません。あるいは、見てほしくないデータがあるなら削除すればいいのですが、突然死であれば、どうしようもありません。

2)家族との人間関係を健全にしておく

そこで、「パソコンのドキュメントの○○○○○という名前のフォルダだけ見てほしい、それ以外は見ないでほしい」など、意思を明確に残しておくことをお勧めします。

もちろん、結果は受け取る側に任せるしかありませんが、自身の意思を伝えて、そのとおりに対応してもらえる人間関係を築くことも、生前対策の一部だと思います。