不動産会社はなぜ相続があったことを知っているのか

相続登記を申請した直後に、不動産業者から営業電話やダイレクトメール、手紙が届くことがあります。親族が亡くなって、それほど日が経っていないにも関わらず、あまりにもタイミングが良すぎて気持ちのいいものではないと思います。

相続税の申告および納税の期限は10か月以内になっているため、相続した不動産をどうするか、ゆっくり検討する時間は足りません。そんなときに、見知らぬ不動産業者や税理士事務所から営業電話がかかって来たり、タイミングよくDMが届くのです。

今回は、不動産会社がなぜ相続があったことを知っているのかについて解説します。

①個人情報が漏洩しているのか

不動産を相続した直後に、不動産業者などから連絡があると、「ひょっとして自分の個人情報がどこからか流出しているのではないか?」と疑問をもつのは当然のことです。

1.相続登記の仕組み

不動産を所有する人が亡くなると、法務局で相続登記の申請をして相続人に名義を変更します。変更登記が受理されると、登記簿にその不動産をあらたに取得した相続人の「住所」と「氏名」が記載されることになります。氏名や住所が記載されることに抵抗を感じるかもしれませんが、登記手続き上、省略することはできません。

2.登記簿に記録される内容

少し専門的になりますが、登記簿に記録される内容を説明します。登記簿は、①表題部、②甲区、③乙区、④共同担保目録の4つの項目に分かれています。不動産の所有者は「甲区」に記載されます。

相続登記が完了した後の登記簿の「甲区」には、たとえばこのような記載がされています。

Aさんが平成10年■月■日にこの不動産を取得し、令和2年▲月▲日にAさんが死亡。そして、令和3年▽月▽日に相続登記を申請し、Bさんが現在の所有者として登記されています。そしてBさんの自宅住所が「東京都Ⅽ区D町三丁目2番1号」であることについても、登記簿から把握することが可能です。

3.登記簿は誰でも取得可能

登記簿は、法務局に申し出るだけで誰でも取得することができます。「誰でも」というのは、その不動産に無関係な人でも、申請すれば取得できるということです。たとえば外国人であっても取得は認められています。現在は、直接法務局に出向くまでもなく、オンライン申請することも可能です。不動産業者は、これらの登記簿の情報をもとに営業をかけてくるわけです。

②不動産業者の営業方法

相続登記をしたことによって、不動産の所有者(住所と氏名)が公になります。とくに相続によって所有者が代わったタイミングというのは、不動産を売却する機会としてもっとも適したタイミングなので、不動産業者にとってもアプローチする絶好のタイミングといえるわけです。

1.電話やDM、手紙

不動産業者が送ってくるDMや郵送の典型例を紹介しましょう。

「売却物件求む!」

「その土地高く買います」

「家を高く売りませんか?」

「無料査定承ります。」
「○○(相続した土地の場所)の不動産を探しているお客様がいます」

このような内容のDMが典型例なものです。注意しておきたいのは、「Ⅹ町一丁目の土地を探しているお客様がいます!」といった、実際には引き合いの実態のない嘘で問合せを誘うケースです。本当にそのような顧客がいればいいのですが、エリア名の部分だけ変更したテンプレートのDMを大量に送り付けるケースがほとんどです。

2.訪問セールス

DMや電話であれば無視すればいいだけですが、自宅まで押しかけてきて「査定させてください」「いまこのエリアで買いたい人がいます」といったセールストークで、営業をかけてくる場合があります。実際に引き合いがなくても、とりあえず媒介契約だけを取ことを目的にした悪質な業者もいます。注意しましょう。

3.不動産業者のセールスから逃れることはできない

登記簿は公になっているので、相続で不動産を取得したことを誰にも知られないようにしておく方法はありません。したがって、不動産業者からのセールスを受けることは仕方ないものとして諦めるしかないところです。

③不動産業者は情報をどこから入手しているのか

1.業者は名簿屋からリストを買っている

世の中には色々な商売があるもので、「名簿屋」という業者が存在します。名簿屋は、法務局から直近で相続登記があった不動産の情報だけを抽出して取得し、名簿一覧にしたデータを不動産業者などに売っています。人海戦術で、片っ端から変更された不動産登記を当たってデータ化していると想像するところですが、実際にはもっと簡単な方法で資料を集めています。

2.不動産登記受付帳とは

相続による登記を調べるためには、「不動産登記受付帳」の行政文書開示請求をすれば可能です。不動産登記受付帳は、不動産登記のうち変更・新設されたものの一覧表で、閲覧もしくは複写ができるものです。

法務局の担当窓口で行政文書開示請求書の書類をもらい、知りたいエリアと時期、さらに相続による登記物件に絞るために、「相続のみ」と書き加えて資料請求すれば、一覧にしたデータが開示されます。

ただし、このデータには土地の住所と登記更新の理由が記載されているだけで、相続人の名前は記載されていません。また、記載されている住所は「住居表示」ではなく、登記簿用の「住所(地番)」なので、そのままではDMを送ることもできません。そこで名簿業者は、地番をもとに、改めて法務局で登記簿を取得して、現在の所有者と住所を入手します。

不動産業者が法務局に独自で請求することも可能ですが、法務局に直接出向くなど、ある程度の手間がかかります。また、登記簿の取得にも費用もかかります。1件数百円ですが、大量に取得すればかなりの費用になってしまうので、名簿屋の情報を仕入れたほうが合理的です。

④あるべき不動産の売却の方法

相続登記をすると、登記簿に住所と氏名が登記されます。名簿屋によってリスト化されると、不動産業者からのセールスは防ぎようがありません。とくに、不動産の価格が高い地域や人気エリアなど、不動産の流通性の高い場所ほど、不動産業者の営業が集中する可能性が高まります。

電話勧誘やDMでアプローチしてくる不動産業者のなかには、売り急がせるなど、必ずしも相続人の利益を優先しない会社が少なくありません。相続した不動産物件を現金化するために売り急ぐと、足元をみられて安く買いたたかれるリスクが高まります。

実際に相続した実家を売却したいと考える場合は、営業をかけてくる業者ではなく、自ら調べて納得のうえで、信頼できる不動産業者に依頼をするのが間違いない方法です。実際の流通価格がいくらなのかを知り、売買実例を比較することによって、流通する適正価格もわかってきます。