税務署はなぜ相続があったことを知っているのか

あるご家庭のお話です。一家の大黒柱が亡くなって数か月経った頃、税務署からご長男の自宅に、「相続税の申告等についてのご案内」という郵便物が届きました。
「税務署はなぜ、父が亡くなったことや、わたしの自宅を知っているのだろうか?」
税務署に連絡したわけでもないのに、たしかに不思議ですよね。

①税務署は人が亡くなったことを知っている

1.市役所経由で税務署に連絡がいく
税務署は、人が亡くなったことを市役所経由で把握しています。遺族が市役所等に死亡届を提出すると、市役所は亡くなった方の相続人の情報や不動産の所有状況を税務署に知らせる決まりになっているからです。冒頭で紹介したご家庭の場合は、ご長男がお父様の死亡届を出されたのでしょう。

2.KSK(国税総合管理)システムとは
税務署は独自の情報網によって、個人資産の内容も把握しています。この仕組みをKSK(国税総合管理)システムといいます。
KSKシステムは、日本全国の税務署、国税局をネットワークで結び、過去に納税者から提出された確定申告や源泉徴収票のほか、株式の売却や配当金、保険金の支払調書などを集計して、納税者ごとに一元管理しています。

3.税務署から逃れることは不可能
普段意識することはありませんが、わたしたちの個人資産はKSKシステムによってガラス張りにされているわけです。そして、一定の資産を有するデータの方が亡くなると、税務署から「相続税の申告等についてのご案内」が、故人の死亡届を提出した遺族宛に届くようになっています。

②税務調査の仕組み

税務調査とは、税務署が「納税者が税金を正しく申告したかどうか」をチェックするために行うものです。相続において、税務署がとくに注目するのは以下の項目です。

預貯金の流れ
不動産や株式、外貨などの金融資産の保有状況や履歴
生命保険(受取人の情報)

税務署は、故人の資産と相続税の申告内容との間にズレがないかをチェックします。そして、不審な点があれば税務調査に入ります。調査は、大きく2種類に分けられます。

1.任意調査
「任意調査」の場合は、税務署から事前に連絡があり、調査日時を決めて行われます。「任意」とはいえ、基本的に断ることはできません。強硬に断ると、後述する「強制捜査」に進んでしまう可能性があります。
調査は、被相続人(亡くなった人)が最後に住んでいた自宅で行われ、その場には、相続人のほか、税理士にも立ち会ってもらうことができます。税務署員からの質問に相続人が答え、場合によって、通帳や土地の権利証などの書類の確認を要求されることがあります。もっとも、無理やり家捜しされるというような、荒っぽい調査をされることはありません。

2.強制調査
「強制調査」は、任意調査を拒否した人や、明らかに悪質な脱税が疑われるケースに対して行われるものです。事前に連絡はなく、抜き打ちで自宅などに調査が入ります。
もっとも、よほど悪質でない限り、実態として強制調査が入るケースは非常に少なく、たいていは任意調査で解決しています。

③税務調査が行われる可能性

1.任意調査される確率は20%
税務調査は、贈与税所得税法人税などさまざまな税金の申告に対して行われますが、なかでも相続税は非常に調査数が多く、任意調査が入るのは申告総数の約20%です。
相続税は比較的高額になるため税務署の注目度が高く、相続は何度も経験するものではないので、申告漏れの間違いも起こりやすいからです。ちなみに、任意調査されたうちの80%は申告漏れを指摘されて追徴課税を支払っています。相続税の税務調査は特段珍しいものではなく、申告漏れをする人も多いという実態があるわけです。

2.調査時期は申告の翌年または2年後
税務調査が入る時期はだいたい決まっていて、申告の翌年または2年後の8〜11月といわれています。税務署の人事異動が毎年7月にあるため、その直後に調査を始めて、翌年の人事異動前までに1年かけて調査を進めていくからです。
申告から2年後の11月を過ぎても調査の連絡がなければ、税務調査が入る可能性はかなり低くなるといえますが、もちろん、これ以外の時期に調査される場合や、3年後以降に連絡がある場合もあります。

④税務調査が入りやすいパターン

ここでは、税務調査が多く入るパターンを確認していきましょう。

1.申告書に不備がある場合
当然のことですが、申告書に計算ミスや記載間違い、添付書類不足などの不備があれば調査の対象になります。

2.相続額が大きい場合
とくに、相続財産の総額が2億円を超えると、税務調査が入る確率はグンと上がるといわれています。資産家の相続はとくに注意が必要です。

3.相続財産に現金や預貯金が多い場合
相続財産のうち、不動産が多い場合よりも、預貯金が多い方が、税務調査が入りやすいとされています。
不動産は評価額の算定が複雑で、解釈の違いが焦点になりやすく、明確な申告漏れを指摘しにくい傾向があります。その点、現金や預貯金は予断が入り込む余地がないため、申告漏れを見つけやすいのです。
預貯金の出金が多いと、被相続人が生前に相続税対策として財産を移転していたという疑いをもたれます。また、返済されていない貸付金は、(債権=相続財産)とみなされ、未申告であれば追徴課税の対象になります。この2点は注意が必要です。

4.名義預金や暦年贈与が多い場合
被相続人の配偶者や子ども、孫などの資産に不審な点があると税務調査の対象になります。とくに注目されるのは、名義預金と暦年贈与です。
「名義預金」とは、被相続人が家族名義で開設した口座です。名義が違っていても、通帳や印鑑を被相続人が管理していたり、名義人自身が自由にお金を出し入れできない預金は、実質的に被相続人の財産であるとみなされます。学生や子どもなど、収入が少ない相続人の預貯金が不自然に多いと、名義預金あるいは「生前贈与」の疑いをもたれます。
ちなみに、生前贈与自体が脱税行為というわけではありません。毎年110万円までの生前贈与は非課税であり、この仕組みを利用して、少しずつ長期間にわたって生前贈与をするという節税方法があります。

 5.海外資
相続財産の中に海外資産が多いと税務調査されやすいです。
海外への送金や入金が1回あたり100万円を超えると、金融機関から税務署にその情報が送られます。そこで把握している資産額と申告内容に違いがあれば、税務調査が入ることになります。

6.被相続人が上場企業の社長、重役、医師、弁護士などである場合
亡くなった人が、上場会社の社長や重役、医師や弁護士など、高収入の職業の場合、税務署のチェックが厳しくなります。特に、相続財産が予想より少ない場合には申告漏れや資産隠しを疑われて調査が入るでしょう。

⑤税務署とトラブルにならないための工夫

最後に、相続人が心がけておきたい、相続税トラブルにならないための対策を提案します。

1.被相続人の財産を把握しておく
多くの場合、相続税の申告漏れが起きるのは、遺族が亡くなった人の財産を把握していないことが原因だといわれています。
配偶者も知らない銀行口座に多額の現金があった、知人とお金の貸し借りをしていた、家族が知らない不動産があり、家賃収入を本人が受け取っていたといったケースをときどき耳にします。ご本人にどんな資産があって、銀行口座はどこにあるかなど、財産全体を家族が把握しておくことによって、申告漏れを防ぐことができます。

2.生前贈与の証拠を残しておく
相続税対策として、生前贈与によって配偶者や子どもに財産を分け、相続財産をできるだけ少なくする方法があります。その場合、「生前贈与である」ことの証拠を必ず残すことが大切です。
たとえば、現金を手渡しして贈与すると、贈与の証拠が残りません。お金の受け渡しが贈与であることを証明できないと、税務署に不審に思われて調査されるリスクが高まります。贈与をする場合は、かならず金融機関に送金し、証拠を残するようにしてください。

3.かならず文書を残す
遺言書があれば確実な証拠になりますが、遺言書に残さずとも、相続に関するやりとりは口約束ではなく、文書にして残しておきましょう。法的根拠はなくとも、遺産分割の過程についての記録と実際の資産状況との間に整合性があれば、税務署から疑われるリスクを下げることができるはずです。

4.相続税の申告は税理士に依頼する
相続人が自分で相続税の申告をすることもできますが、税理士に依頼したほうが税務調査は入りにくくなります。税務のプロである税理士の申告であれば、ミスや申告漏れは少なく、脱税行為の可能性についても考えにくいはずです。実際に税務署もそのように認識しています。

 

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