ペット信託の注意点

高齢者がペットを飼育する際、自分がペットより先に亡くなる、あるいは事故の後遺症や病気など、さまざまな理由から、飼育が困難になることがあります。このような事態を想定して、飼い主に代わって、ペットの飼育を継続してくれる人を想定しておくことは、とても大切です。

そこで登場したのが「ペット信託」という、あたらしいアプローチです。大変魅力的な仕組みなのですが、諸手を挙げて安心できるとは限らない点もあります。

そこで今回は、ペット信託を検討する際に、確認しておくべきポイントを紹介します。

①ペット信託の仕組み

ペット信託を解説するまえに、「信託」という仕組みを説明します。そもそも信託とは、自分の財産を第三者(受託者)に託し、自分(委託者)に代わって管理や運用をしてもらうシステムです。

信託制度は。以前は信託銀行や保険会社などの企業が受任する形が一般的でしたが、受託者を親族が担う「家族信託」という仕組みが構築されました。そして、「財産の管理」を「ペットの飼育」に応用したものがペット信託というわけです。

具体的には、飼い主(委託者)が病気や怪我による飼育困難な状況になった、あるいは死亡した場合に、あらかじめ信託関係を結んでいた受託者に、委託者の財産から飼育費を支払うことで、ペットが生涯安心して生活できるようにするという内容です。契約の形態としては、受託者がそのまま里親になるケースのほか、受託者が里親探しをするケースもあります。

②ペット信託の手続き

1.信託契約書の作成と契約

ペットの飼育の内容や、飼育をするために必要な費用を信託財産から支払うこと等を記載した「信託契約書」を作成します。のちのトラブルを避けるために、公正証書による契約書の作成が好ましく、契約は公証役場で締結します。

2.信託契約専用の口座開設

銀行に信託契約専用の口座を開設し、契約書に記した費用を入金します。信託金は受託者が管理します。信託契約が開始すると、受託者が口座から必要な金額を引き出し、費用に充当します。

3.信託契約の注意点

1)遺言書を同時に準備しておくこと

先に述べたように、ペット信託契約は公正証書によるべきですが、同時に遺言書を作成し、そのなかでペット信託についても記しておくべきです。せっかくペット信託を契約しても、委託者の親族がその事実を知らないと困ります。

飼い主の「もしも」に備えて。遺言書にペット信託の契約内容を明記しておきましょう。

2)信託監督人を任命しておくこと

一旦委託者の手から離れてしまえば、その後、ペットが適切な飼育がされているかどうかについて、委託者自身が調査することは容易ではないと思います。ましてや、委託者が亡くなったあとでは、確認のしようがありません。

そこで頼りになるのが、「信託監督人」の存在です。信託監督人は飼育状況を監視し、もし信託内容どおりに適正な飼育がなされていない場合は、受託者にその事実を指摘し、改善を命じ、契約通りに業務を遂行させる権限を有します。

③ペット信託の費用

ペット信託をするためには、初期費用と飼育費用の2つの費用が必要です。

初期投資は信託契約書の作成料など、飼育費用には、食費やトイレ用品、医療費などの飼育用品のほか、受託者への報酬が含まれます。

飼育費用はペットの種類や余命、病気の有無などによって変わってきますので、一概にいくらと明記できませんが、下記が参考的な金額になります。

・信託契約書作成費用 15~20万円

・飼育費用 年あたり25万円程度(小型犬の場合)

・受託者への報酬 年あたり10~50万円

信託金の払い込みの方法については、契約開始の時点で、初期費用から飼育費用、受託者への報酬まで一括で入金するケースもあれば、実際に信託契約がスタートした時点でそれらの総額を預けるケースなど、契約内容によってさまざまです。

④ペット信託の弱点

注目されているペット信託ですが、サービスが始まってから日が浅いこともあって、まだまだ整備不足の部分もいくつかみられます。

1.里親探しが難しい

ペット信託を検討する際に、すぐに里親がみつかるかどうかは、大変気になるところだと思います。

前述のように、ペット信託では、受任者がそのまま里親になることもあれば、飼育施設(老犬ホームやペットシッター)に譲渡したり、あらたな飼い主に引き継ぐ場合もあります。最近はペット信託を扱う専門業者も増え、NPO団体も積極的に活躍しているとはいえ、タイミングやペットの状態によっては、里親探しが難航することも考えられます。

ペットは家族ですから、あたらしい飼い主が誰でもいいというわけにはいきません。委託者の希望はさまざまですから、そのような条件を全て受け入れてくれる里親がなかなか見つかりにくいのが現実です。

2.ペット信託を扱う専門家が少ない

ペット信託のもうひとつのデメリットは、専門家の少なさです。信託契約の内容を決めたり、契約を交わすためには、専門的な知識が必要になります。しかし、ペット信託は新しい仕組みなので、専門に取り扱っている事務所や専門家はまだ、多くありません。

近年はインターネットでも業者を探すことができますが、納得できる事務所や専門家を探すとなると、飼い主にはかなりの労力がかかるはずです。

3.最大の課題は費用問題

実際問題として、ペット信託はかなりお金がかかります。ペット信託を検討している飼い主のなかからは、「費用が高く、気軽に手を出しづらい」という声も多く聞かれます。

ただし、実はその費用のほとんどは飼育代です。飼い主が自分で飼育しても同じようにお金がかかるのですが、信託契約の場合、そのお金を事前にまとめて信託口座に入金しなければならないことが、信託契約を結ぶ際のネックになるのです。