高齢者が亡くなったあと大切なペットはどうなるのか

ペットには癒し効果や認知症予防効果があり、犬や猫は高齢者にとってのよきパートナーになります。家族同然の存在であるペットですが、もし飼い主さんが先に亡くなってしまったら、かれらはどうなるのでしょうか。
今回は相続とペットの関係に焦点を当て、死後にペットを任せられる「ペット信託」の仕組みや費用について解説します。

①深刻な高齢者のペット問題

1.人間同様に犬猫も長寿化がすすむ
現代は空前のペットブームといわれていますが、動物医療や飼育環境、ペットフードの進化などにより、ペットの長寿化もすすんでいます。
ペット保険を提供するアニコムホールディングスが公表した「家庭動物白書2022」によると、同社のペット保険契約をもとに算出した犬の平均寿命は14.1歳、猫の平均寿命は14.4歳でした。同社の調査によると、犬猫の寿命は年々長くなっているといいます。

2.飼い主が先に亡くなるケースも増えている
ペットの長寿化とともに、飼い主が先に亡くなるケースが増えています。孤独死が社会問題となっていますが、その際に残されたペットへの影響も深刻です。飼い主の遺体とともに、餓死寸前または死んだペットが見つかるなどの悲しい事例も発生しています。

3.ペットを誰に預ければいいのか
老夫婦の2人世帯や高齢者の独居世帯の場合、歳をとるにつれてペットの世話をすることが難しくなってきます。
このような場合、子どもや親類などに世話を頼りたいところですが、ペットを引き取ることができない住環境であるとか、そもそも動物が苦手という場合も考えられます。そこで、第三者にペットを託せる「ペット信託」の仕組みがつくられることになりました。

②ペット信託を活用すべき理由

1.民事信託とペット信託
「民事信託」とは、自分の財産を誰かに預けて有効活用してもらい、そこから生じた利益を受けとる仕組みである「信託」の一形態です。
信託銀行がとり扱う金融商品投資信託とは異なり、民事信託は、受託者が営利を目的としないのが特徴です。判断力が低下した方や高齢者の財産の管理や処分を目的とし、その多くは家族間で行うものです。
ペット信託は民事信託を応用した仕組みです。飼い主の高齢化にともなう体調不良や死亡による飼育困難(不能)な状況に備えて、あらたな飼い主にペットを預け(信託)、飼育を継続することを目的としています。
ペット信託を利用するためには、委託者(飼い主)と受託者の間で信託契約を結ぶ必要があります。そして、委託者による飼育が困難になると信託がスタートします。

2.遺贈との違い
飼い主の死後、ペットの飼育を任せる方法としては、「遺贈(負担付き)」という形式もあります。相続財産を受け取るための条件として、ペットの飼育を指示する契約です。たとえば「残された猫の飼育を生涯継続して行うことを条件に、1000万円の預金を遺贈する」といった内容になります。
しかし、ペットの今後を考えた場合には、ペット信託の方が優ります。負担付き遺贈では、ペットの飼育がしっかりされているかのチェックが難しいからです。信頼できる親族であれば安心できますが、遺産だけ受け取って、ペットの飼育をしない相続人が出てくる可能性も否定できません。

3.ペット信託を利用するメリット

1)ペットの飼育放棄を防ぐことができる
前述のように、負担付き遺贈を選択した場合、飼育放棄されるリスクがあります。ペット信託であれば、あらかじめ飼い主にふさわしい施設や個人(受託者)を指定することができ、受託者は業務として実行するため、負担付き遺贈よりも大きな効力を持つことになります。
ペット信託は、一括支払い、または、相続財産に該当しない飼い主の信託口座で運用するため、かりに相続人に争いが起きたとしても、飼育費の支払いが滞るリスクはありません。

2)ペットの飼育状況を指定できる
ペット信託では、ペットの飼育方法を細かく指定することができます。ペット病院、トリミング施設、ペットシッターなど、飼い主の希望通りに指定できます。さらに「信託監督人」を指名すると、指定した飼育方法を受任者が守っているのかどうかのチェックを行ってくれるので、安心度が高まります。

③ペット信託の料金相場

ペット信託の料金相場について、初年度に必要となる項目をまとめました。あくまでも平均的な費用なので、当然ですがペットの年齢やコンディション、個体差によって変動します。
契約書作成は行政書士に依頼し、あわせて公正証書遺言も作成しておくとよいでしょう。

契約書作成費用          150,000円(犬)    150,000円(ねこ)
公正証書遺言作成         120,000円(犬)    120,000円(ねこ)
予防接種や病気やケガの治療    150,000円(犬)      60,000円(ねこ)
シャンプーやトリミング代       50,000円(犬)      40,000円(ねこ)
ノミ・ダニ予防                            15,000円(犬)      15,000円(ねこ)
トイレ砂・シート代など             40,000円(犬)      60,000円(ねこ)
初年度合計額                              525,000円(犬)    445,000円(ねこ)

概算ですが、初年度で45~55万円程度、2年目以降は20~30万円の費用がかかります。すべての費用は受託者が信託口座から支払います。

④ペット信託の注意点

1.悪質業者に注意
ペット信託はペットの将来を守るための画期的な仕組みですが、実はまだ、スタートしてから間もないサービスです。
ペット信託を取り扱うNPO法人などもありますが、パンフレットだけで信用せず、面倒でも自分の目で飼育状況を確認するようにしてください。大変残念なことに、高齢者のペットに対する愛情に付け込み、法外な料金を請求する業者もあるので注意しましょう。それとは逆に、安すぎる料金設定の場合も要注意です。

2.初期費用がかかる
ペット信託を利用するためには、契約時にまとまった費用が必要です。契約時に一括で支払うか、信託口座に必要な金額を入金しておくのが一般的です。利用するペット信託によっては、100万単位の費用がかかるケースもあります。

3.受託者選びの難しさ
ペット信託の受託者を選ぶことは最大のハードルになるかもしれません。条件に合う受託者が見つかれば問題ありませんが、飼い主自身が探すのも難しいと思います。
ペット信託をサービスとして提供している団体が受託者を探してくれるケースもあります。その分費用は高くなるかもしれませんが、いつまでたっても受託者が見つからず、ペット信託が利用できないという事態を避けるためには、それらの紹介サービスを選択したほうがいいでしょう。

⑤ペット信託を始めるために

1.相続とセットで考える
ペット信託を検討する際には、相続についても並行して考えておきましょう。ご自身の没後の遺産トラブルを避けるためには、遺言書の作成は重要です。
ペット信託だけを先行するのではなく、まずは相続全体のことを考えて、その中でペット信託の詳細を考えるというのが自然な流れです。

2.信託監督人を選ぶ
ペット信託を選択する際には、同時に「信託監督人」を選びましょう。信託監督人は、ペット信託の取り決めが確実に守れているかを監督する役割の人です。信託監督人を選任する場合は、契約書作成のときから関わってきた行政書士に依頼するといいでしょう。

⑥ペットを飼うことを諦めないでほしい

ペットとの暮らしが生きがいになり、活力を取り戻す高齢者も多くいますが、「ペットを飼いたいけど、自分が死んだ後が不安で飼えない」という方も多いというのが実情です。しかし、ペット信託を利用すれば、飼い主が亡くなっても、ペットの生活は保障されます。高齢者の方にも、これからペットを飼うことを諦めないでほしいと思います。
もっとも、独りよがりになってはいけません。ペットも大事ですが、残された家族のことも考えておかなければなりません。ペット信託を検討する際には、遺言書の作成をセットで考えておくようにしましょう。