相続財産が不動産しかない場合の注意点

ご自分の遺産相続を考える際に、不動産のほかに預貯金などがあれば、「長男には土地家屋を、次男には預貯金を」といったように分配することができますが、「財産といえば家と土地だけで、現金や金融資産はほとんどない」というご家庭も多いのではないでしょうか。
相続人が複数いる場合、不動産を共同名義にするケースも見受けられますが、のちに不動産を処分する際に、共同名義のままではスムーズに現金化ができないケースも見受けられます。

①母と2人の子どもの家族の場合

たとえば、母親と子どもが2人の家族における相続をイメージしてみましょう。父親は20年以上前に他界し、当時は子ども2人が幼かったため、母がすべての遺産を相続しています。
母の財産は以下の通りです。

・不動産(土地と家屋) 評価額1億円
・現金2000万円

②不動産の共同名義について

1.不動産の共同名義とは
母が亡くなった場合、子ども(AおよびB)は、6000万円分ずつ均等に相続するというのが法定相続の基本的な考え方です(母親の扶養など寄与分の条件は除外)。
相続の方法のひとつとして、「不動産を共同名義にする」という形があります。この場合には、たとえば以下のような分配方法が考えられます。

・A⇒不動産(土地と家屋)のうち5割(5000万円分)と現金1000万円
・B⇒不動産(土地と家屋)のうち5割(5000万円分)と現金1000万円

あるいはこのような形も考えられます。

・A⇒不動産(土地と家屋)のうち6割(6000万円分)
・B⇒不動産(土地と家屋)のうち4割(4000万円分)と現金2000万円

(※)なお後述しますが、不動産の価額の算出方法については少々面倒な問題があります。

2.共同名義の問題点
不動産を共同名義にした場合には、以下の問題が発生するリスクがあります。
1)不動産の運用が難しくなる
先ほどの家庭の例でいうと、母が亡くなったあと、土地家屋はAとBの共有になります。共同名義の不動産には、いくつか問題点があります。
たとえば、共有建物を賃貸するためには、共有者の持分の過半数の同意が必要であり、売却する場合には、共有者全員の同意が必要です(ただし、持分の売買については単独でも可能)。

2)代替わりを重ねると解決がさらに困難になる
共有者の一方(たとえばA)が死亡した場合には、Aの相続人(配偶者や子ども)が共有持分を相続することになります。さらにその先、AおよびBの直系卑属がいる限り、代替わりするごとに、共有者は連鎖的に増えていきます。
代を重ねるごとに血縁関係は遠くなり、関係も疎遠になっていきます。その段階になって、共有者の誰かが不動産を処分しようと考えても、全員の同意が得られず、処分をすることが難しくなってしまうことが考えられます。
結局、共同名義という相続方法は、遺産分割の解決を先延ばしにするだけで、最終的な解決にならないというわけなのです。

③共同名義以外の解決方法

それでは、共同名義以外に、どのような遺産分割の方法があるのでしょうか。

1.代償分割
「代償分割」は、相続人の誰かが不動産を相続し、ほかの相続人に金銭で精算する方法です。 相続した不動産に相続人の誰かが住む場合、たとえば長男Aが、母の住んでいた家にそのまま住み続けるというパターンが一般的です。
長男Aが実家を相続するかわりに、次男Bには応分の遺産を金銭で精算します。この場合、Aが、Bに支払うお金を用意できるかどうかがカギになってきます。

2.不動産の評価問題
また、前述したように、お互いの相続分を算定する際には、相続不動産の価額の妥当性が問われます。不動産の評価方法は、時価なのか、固定資産税評価額なのか、それとも路線価で評価するのか、あるいは不動産鑑定士に鑑定評価をしてもらう方法もあります。
不動産価額の算出方法には決まりはないので、あくまでも相続人全員の話し合いによって合意を得る必要があります。この場合、相続人全員が納得する評価方法を採用することが難しいケースも考えられます。

3.換価分割
「換価分割」は、不動産を売却してお金で分け合う方法で、最も公正かつ適正な方法といえるでしょう。実務上でも多く採用されています。売却すれば、不動産を維持するための固定資産税の負担もなくなります。
換価分割の問題点は、売却するために相続人全員の合意が必要だということです。相続人のうちの誰かが売却に反対すれば、売却はできなくなります。このほか、大前提として、売却できる不動産であることが重要です。地方の物件などは、そもそも売却先が見つからないことも考えられることから、換価分割の方法は難しいと思います。
実際に売却するためには、一旦相続人に登記名義を移す必要があります。この場合、売却活動を行う代表相続人1人が名義人になる、もしくは法定相続分の登記を行ったうえで、売却をすすめることになります。

④解決方法は状況により変えること

「共同名義」「代償分割」「換価分割」の3つの方法を紹介しましたが、それぞれ長所短所があります。どの方法を採用するかについては、状況に応じて選択することになります。

1.共同名義は避けたい
まず、共同名義については、結局のところ遺産分割の問題の先延ばしにしかならないので、基本的には選択肢から除外すべきと思います。
そのほかの共有不動産のトラブルの典型的な例が「共有物分割請求」という仕組みです。各共有者は、共有状態を解消するために、ほかの共有者に対して共有物の分割を請求することが認められているのです。
共有者同士が分割方法を巡って強硬に主張を戦わせ、親族関係がますます悪化してしまったケースも少なくありません。最終的に裁判で共有物分割請求が争われることになると、過大な弁護士費用がかかるほか、当事者にとって不本意な形で土地・建物が競売されてしまう可能性もあります。

2.不動産が売れるかどうかで決める
残る2つの選択肢ですが、いずれを選ぶかについては、相続人全員に売却意思の合致があるかどうかで判断しましょう。
家族が長く住み続けてきた家など、思い入れが強い不動産を他人に売りたくないという遺族の気もちはよく理解できます。誰か一人でも拒めば、売却手続きはスムーズにすすめられません。
また、その不動産が物理的に売却可能かどうかもポイントになります。田舎の屋敷など、売却が見込めない物件については、換価分割は現実的に難しいでしょう。
売却が難しいとなれば、あとは金銭による精算で合意を進めていくことになります。家屋敷を相続した長男が手元に現金がない場合には、融資も検討したいところです。代償分割を対象にしたローンを組める金融機関もあるので、調べてみるといいでしょう。

 

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