プロ野球のドラフト会議は憲法違反か

世代的に、わたしはサッカーより野球のほうが好きです。春夏の高校野球は毎年楽しみにしていますし、わが地元中日ドラゴンズは、昨今低迷していますが、ずっと応援しています。

さて、最近はほとんど聞かれませんが、かつては、ドラフトの時期になると、この制度が日本国憲法22条が定める「職業選択の自由」に違反しているのではないかという議論を耳にした記憶があります。古くは江川卓投手が2回にわたって指名を拒否し、就職浪人までして、最終的にアクロバティックな方法で巨人に入団した「空白の一日」を思い出します。あれで江川投手は一気にヒール役になってしまいましたが、当時わたしは子どもながら、バッシングされる江川投手に同情的で、「どうしてもこの球団に行きたい!」という希望がある人にとって、就職先を自由に選べない状況は、さすがに気の毒だと思いました。

プロ野球選手になるためには、NPB(一般社団法人日本野球機構)が実施するドラフト制度を利用しなければなりません。このことをもって、「職業選択の自由」とともに「独占禁止法」に抵触するのではないかという議論が起きたこともありますが、法曹界の反応は冷ややかです。日本のプロ野球という興行コンテンツを魅力あるものにするために、戦力の均衡化を図る目的で行われる目的から、「著しく不合理とまではいえない」という見解が支配的なようです。

その後、ドラフト会議は、指名入札、ウェイバー方式、逆指名制度、自由獲得枠など、さまざまな方法が実施され、現在は一周まわって元の制度に戻っていますが、最近ではほとんど憲法違反議論を耳にしなくなりました。海外を含めたFA制度の拡充の効果もありますが、以前ほど特定の球団(たとえば巨人)に人気が集中しないという現状があるからではないかな、と思います。

ドラフトといえば、個人的に気になるのは、指名された選手の契約金にかかる税金問題です。日本の所得税法によれば、プロ野球選手の契約金は「臨時所得」です。この場合、通常であれば「累進課税」が適用されることになります。しかし、累進課税が適用されると税額がものすごく高くなってしまうので、重すぎる税負担を軽減するために、プロ野球選手の契約金には「平均課税」という方式が採用されています。

平均課税とは、ざっくりいうと、一度に受け取る契約金を5年間で分割して受け取ったとみなして算出する方法です。具体的にどれぐらいになるのか、気になりますよね。早速試算してみましょう。

契約金1億円で年俸が800万円の場合

累進課税の場合)

合計1億800万円の収入に対する所得税最高税率(45%)で計算されます。

所得税)4454万円

(平均課税の場合)

5年間の平均課税を適用すると、実際にはこのようになります。

所得税)3211万円

平均課税でもかなりの税額にはなりますが、ざっと1000万円以上違います。

プロ野球選手には基本的に退職金はないので、契約金は退職金の前払いと考えるべきでしょう。一般のサラリーマンであれば、退職後に受け取ったお金で、その後の人生設計を立てることができますが、20歳前後の特定のスポーツの世界しか知らない若者に、大金を渡していきなり退職後の人生設計を立てることを強要するというのは、なかなか厳しいものがあります。周囲の大人や親がしっかりしていないと、道を誤ることになりかねませんね。

もちろん、プロスポーツは実力の世界ですから、結果を残すことで年棒がどんどん上がるロマンはありますが、大半の選手は数年で廃業に追い込まれます。小心者の元サラリーマンとしては、契約金を引退後に受け取る仕組みをつくるなど、選手に選択の自由を与えてはどうかな、と考えてしまいます。

もっとも、こんな風に考えているわたしは、しょせんはサラリーマン思考の限界。「グラウンドに金が落ちている」と考えることができるアグレッシブさがなければ、プロ選手としては大成しないだろうな。